コラム

家族信託とは?7つのメリットを解説

高齢化社会の進行に伴い、注目されている家族信託。

家族信託は、信頼できる家族に財産の管理を託す事により、認知症や障害等によって判断能力が低下した場合でも、大切な家族のために財産を有効に活用し守る事ができる制度です。

今回は、その家族信託の概要やメリットをご紹介。
実際に家族信託が活用できるケースや、必要な手続きについても解説します。

家族信託とは?

家族信託とは、わかりやすく言うと「自分の財産を自分で管理できなくなった時のために、家族に財産を管理・処分できる権限を与えておくこと」です

基本的に、銀行で多額のお金をおろしたり、株式や不動産を売買したりということは、その財産の持ち主本人にしかできません。
しかし、高齢者の場合、認知症や病気で判断力が低下する、手続きに行けない、意思表示ができないなどの問題が発生することも。
そうなる前に家族信託をしておけば、家族が手続きを行うことができるようになり、財産をスムーズに管理できるのです。

家族信託の活用事例

実際に家族信託が活用される事例としては、以下のようなものがあります。

・認知症対策
・遺言書のように法定相続人以外の親族(孫など)に資産を継承させられる
・財産が差し押さえられても、家族信託した財産は保護することができる
等です。

元気なうちは「必要ない」と思う方も多いですが、実際に自分で自分の財産が管理できなくなってからでは遅いです。
家族信託はメリットが多く、デメリットが少ないので、ぜひご家族で話し合っておくことをおすすめします。

家族信託の6つのメリット

それでは、具体的に家族信託をするとどんな良いことがあるのかを解説していきます。

①元気なうちに財産の管理を任せられる

第一のメリットは、認知症対策ができるということ。
判断力がしっかりしているうちに家族信託を組んでおけば、本人の判断力が低下したあとでも従前と変わらず資産の管理ができます。

例えば、本人が認知症でケア施設に入所したあと、空き家となった家を受託者主体で売却することなどが可能になります。

②後見制度の代用として財産を管理できる

成年後見制度とは、認知症・知的障害・精神障害などが理由で判断力が低下している人に、後見人となって援助する人を付ける制度のこと。
ただし、この成年後見制度には、以下のような負担や制約があります。

・家庭裁判所への定期的な報告義務がある
・後見人への報酬(月額2~6万円程度)を払い続けなければならない
・成年後見人ができるのは、被後見人にメリットがあることのみ

対して、家族信託であれば上記のような制約はありません。
本人の希望・方針や、付与する権限を記した信託契約書の内容の範囲であれば、柔軟に財産を管理することが可能となります。

③遺言の代わりに資産継承について定められる

家族信託は、遺言の代わりに本人が死亡した後の財産の承継者を指定できます。

さらに、承継者に引き継がれた財産も、引き続き家族信託の受託者が管理することが可能になります。
例えば、高齢の男性が死亡したあと、認知症の奥さんが財産を相続した場合、引き続き受託者である子供が財産を管理するということができるのです。

④財産継承の順位付けが可能

家族信託に遺言の機能があることは先にお伝えしましたが、家族信託ならさらに2次相続以降の指定もすることができます。

例えば、前妻との間に子供がいて後妻との間に子供がいない場合で通常の相続がおきると、前妻との子と後妻が相続人となります。
これに対して、家族信託をすることによって、後妻が存命中は後妻に自宅などを使用してもらい、後妻が亡くなった後は血の繋がっている前妻との間の子供に自宅を相続させる事ができます。
これは今までは遺言書を書いていたとしてもできない事でしたが、家族信託を活用する事によって可能になりました。

⑤共有不動産に関するトラブルを防ぐことができる

兄弟や親族で不動産を共有している場合、共有者全員の同意がないと売却ができません。
もし、共有者の誰かが認知症になったり、病気で意思表示ができなかったりといった場合、適切なタイミングで売却等の処分をすることができない可能性があります。そんな時、家族信託で受託者を定めておけば、信託契約書の範囲内で柔軟な対応ができるようになるのです。

⑥委託者が倒産しても原則影響を受けない

家族信託をすると、原則として信託財産は委託者や受託者の財産からは切り離して考えることになります。
委託者や受託者が倒産して財産が差し押さえられることになっても、信託財産は保護することができるのです。これを倒産隔離機能といいます。
ただし、委託者兼受益者が倒産をした場合には、信託財産も差し押さえの対象となるため注意しましょう。

家族信託のデメリット・リスク

家族信託はメリットが多く、デメリットやリスクはほぼありません。
しかし、リスクや注意点も多少存在しますのでご説明します。

①受託者を誰にするかでトラブルに

受託者とは、家族の中で財産の管理を任される人のこと。
いわば、その人の一存で財産を動かすことができるので、その選び方によってはトラブルが生じかねません。

家族信託に限ったことではありませんが、受託者は人間関係に配慮して選ぶ必要があるでしょう。

②できることには限界がある

家族信託はとても便利な制度ですが、万能ではありません。遺言や、成年後見制度でないとできないこともあります。

例えば、遺留分減殺対象財産の順序指定は、遺言でなければできません。
生前の信託契約では、相続発生時の全ての遺産をカバーすることができないので、全ての遺産の承継先を決めておきたい場合は、家族信託と合わせて遺言を利用する必要があります。

また、「身上監護権」は成年後見制度にしかない権利です。
家族信託で受託されるのは財産に関することのみなので、入院手続きや施設入所手続きなど身体に関する手続きはできません。
ただし、これらの手続きは本人の親や子どもならできるケースがほとんどなので、あまり心配はいらないでしょう。

③高い節税効果があるわけではない

中には、相続税や贈与税の対策として家族信託を利用する人もいます。
しかし、家族信託にはそこまで高い節税効果はありません。
相続発生時、財産評価の減額評価などがないことは、実際に家族信託を組む前に知っておくべきです。

④損益通算がきかない

収益物件の不動産を信託財産に入れた場合、信託不動産から生じた赤字は無かったものと見なされます。
受益者の他の所得と損益通算をして、課税所得を減らすことはできないのです。

また、この損失を翌年以降に繰り越すこともできなくなっています。

⑤税務申告に手間がかかる

信託財産から年間3万円以上の収入が得られた場合は、信託計算書・信託計算書合計表を税務署に提出する必要があります。
また、信託財産から不動産所得がある場合、確定申告の際に通常の不動産所得の申告の他に、信託財産に関する明細書を添付しなければいけません。
ただし、元々税理士に依頼していた場合は、これらの手続きも税理士が行なってくれるため、手間は変わりません。

⑥遺留分侵害額請求の対象となる可能性

ご存知の方も多いと思いますが、遺産には本人の意思とは関係なく相続できる「遺留分」という制度があります。
この遺留分を侵害する内容の家族信託をした場合、遺留分侵害額請求の対象となる可能性があります。

このようなトラブルを避けるため、家族信託と合わせて遺言の作成を行うなどのフォローが必要となるでしょう。

家族信託の利用方法・費用

最後に、家族信託の利用方法や、それに伴う費用を解説します。

始めるタイミング

家族信託を始めるのは、本人が元気でしっかりした判断力がある時がベスト。
具体的には、以下の対応がきちんとできる間に家族信託を考え始めます。

・家族信託の内容を自分で理解し、受託者と打ち合わせができる
・公証人役場で、契約の内容を質問された時に意思表示できる
・銀行窓口で、普通預金や定期預金を信託用口座に移す手続きができる
・不動産が信託財産にある場合、司法書士による本人確認に答えられる

上記の条件を満たしていれば、特に年齢の下限・上限といった制約はありません。

家族信託利用にかかる費用

家族信託にかかる費用は、以下の通り。

・印紙税:契約書1通につき200円
・登録免許税(不動産の登記を行う場合)
・弁護士・司法書士・税理士等への報酬(依頼した場合)
・公正証書の作成費用(作成した場合)

印紙税以外の費用は、信託財産の評価額によって異なるため一概には言えません。
基本的に、財産の金額が大きいほど家族信託にかかる費用も大きくなります。

家族信託に関係する税金

委託者=受益者とする家族信託契約を設定する限り贈与税や不動産取得税は発生しません。
但し、不動産を信託する場合登録免許税がかかってきます。(贈与や売買に比べると登録免許税は大幅に安くなります。)
また、委託者や受益者が亡くなり、委託者≠受益者となった場合は相続税がかかる場合があります。

まとめ

家族信託は財産の管理を信頼できる家族に委託できる、メリットの多い制度です。
認知症や相続争い、会社の倒産といった、将来のリスク回避のために、ぜひご検討ください。

ただし、家族信託は万能ではないので、注意すべき点もあります。
メリット・デメリットをよく理解して、家族信託を有効活用していきましょう。