コラム

遺産相続にかかる税金とは?税率の計算・控除まとめ

遺産相続には、「相続税」という税金がかかります。
相続税は全ての遺産相続で発生するわけではありませんが、税率や税額が大きくなりやすい税金です。

今回は、遺産相続にかかる税金「相続税」が発生する条件や、相続税額の計算方法、相続税に対する税金対策などについて解説していきます。

遺産相続にかかる税金「相続税」とは

遺産相続では、相続する財産の額が一定を超えると「相続税」がかかります。
相続税は遺産を相続した人に課税されるもので、法定相続人ではない親族以外でも相続をすれば課される可能性があります。

ただし、相続税は控除の額が大きく、生前に対策もできるため、実際に相続税が発生するのは死亡者数に対して全体の8%程度です。遺産相続が発生しても、相続税が発生するケースはそう多くはありません。

相続税が発生する条件とは?

それでは、具体的にどんな時に相続税が発生するのか知っていきましょう。

遺産相続時に相続税が発生するのは、相続財産の総額が「基礎控除額」を超える場合です。

基礎控除額のラインは「3,000万円+600万円×法定相続人の数」

遺産相続には、「基礎控除額」という相続税が非課税になる枠があります。
その基礎控除額の計算方法は、以下の通り。

・基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

そのため、遺産額が3,600万以下なら相続税が発生する可能性はないということになります。
ちなみに、相続人の人数と基礎控除額の関係は、以下のようになります。

法定相続人1人:3,600万円
法定相続人2人:4,200万円
法定相続人3人:4,800万円
法定相続人4人:5,400万円
法定相続人5人:6,000万円

法定相続人の数を特定する

相続税の基礎控除額を計算するには、法定相続人の数を特定する必要があります。

法定相続人となるのは、亡くなった人の「配偶者」「子・孫」「両親・祖父母」「兄弟姉妹」の範囲までです。
ただし、このうち全員が法定相続人になるわけではなく、相続には優先順位があります。

必ず法定相続人となる:配偶者
第1順位:子(子が亡くなっている場合は孫)
第2順位:両親(両親が亡くなっている場合は祖父母)
第3順位:兄弟姉妹

ちなみに、法定相続人の数の計算には、相続放棄をした人も含まれます。

例えば、父・母・兄・弟という家族で、父の遺産を相続する場合。
この場合、法定相続人は母・兄・弟の3人なので、基礎控除額の計算は「3,000万円+600万円×3」。相続税の基礎控除額は「4,800万円」となります。

また、配偶者や子供がいない人の場合、法定相続人となるのは第2・第3順位の人です。
例えば、未婚の一人っ子である方が亡くなった場合、法定相続人は両親2人となり、基礎控除額は「3,000万円+600万円×2=4,200万円」。
未婚かつ両親も他界していて、兄弟姉妹が4人いるというような場合、基礎控除額は「3,000万円+600万円×4=5,400万円」となります。

しかしながら、遺言があった場合、財産を相続するのは法定相続人のみとは限りません。
法定相続人の数は、あくまでも基礎控除額の計算のための基準であって、実際には法定相続人=相続を受ける人ではないのです。

遺産相続にかかる税金「相続税」額を計算するには

それでは、相続税が発生する場合、実際どのように計算するのかを見ていきましょう。

①遺産と債務を整理する

まず、遺産相続にかかる税金を計算するには、正確な相続財産の額を算出しなければいけません。
亡くなった方が持っていたプラスの財産から、マイナスの財産(借金等)を差し引いたものが、相続財産の正味の額です。

相続税申告の対象となる財産・ならない財産は、以下の通りです。
まずはこれらを全て洗い出し、差し引きすることで相続財産の総額が確定します。

相続税申告の対象となるプラスの財産の例
・金融資産(現金・預貯金・有価証券・小切手・株券・国債・社債・債権・貸付金・売掛金・手形債権など)
・不動産(土地・建物など)
・不動産上の権利(借地権・定期借地権・地上権など)
・動産(車・骨董品・宝石・貴金属などの家財)
・その他の証券や権利(ゴルフ会員権・著作権・特許権・商標権・意匠権など)

相続税申告の対象となるマイナスの財産の例
・借金(借入金・買掛金・手形債務・振出小切手など)
・租税公課(未払の所得税、住民税、固定資産税など)
・預かり金の返還義務(預かり敷金・保証金など)
・その他債務(未払費用・未払利息・未払の医療費など)

相続税申告の対象とならない財産の例
・祭祀に関するもの(墓地・仏壇・仏具など)
・被相続人の一身に専属したもの(扶養請求権、財産分与請求権、生活保護受給権、国家資格など)
・身元保証など保証額に期間や制限のない保証債務
・遺族年金
・死亡したことに対して支払われる損害賠償金
・香典、弔慰金、葬儀費用

金額と法定相続人の数によっては相続税申告の対象となる財産
・受取人が指定されている生命保険金
・受取人が指定されている死亡退職金

②課税遺産総額を算出する

上記の項目で算出した正味の遺産額から、控除額・特例の減額を差し引いたものが「課税遺産総額」です。

相続税では死亡保険金・死亡退職金に「非課税限度額」というものが定められていて、以下の金額を超えると相続税が課されます。
・500万円×法定相続人の数

③相続税の総額を算出する

上記の方法で計算した課税遺産総額を、法定相続人で分けた「法定相続分」に、それぞれ相続税の課税率をかけたものの合計が相続税の総額です。

相続税の税率は相続額が高いほど税率も高くなる、累進課税制度となっています。
課税遺産総額と相続税の税率の関係は、以下の通り。

1,000万円以下:10%
3,000万円以下:15%(控除額50万円)
5,000万円以下:20%(控除額200万円)
1億円以下:30%(控除額700万円)
2億円以下:40%(控除額1,700万円)
3億円以下:45%(控除額2,700万円)
6億円以下:50%(控除額4,200万円)
6億円超:55%(控除額7,200万円)

つまり、例えば課税遺産総額1億円を、妻・息子2人の3人が相続した場合、
妻(相続割合1/2):5,000万円×20%−200万円=800万円
息子①(相続割合1/4):2,500万円×15%−50万円=325万円
息子②(相続割合1/4):2,500万円×15%−50万円=325万円
以上を合計した「1,450万円」が相続税の総額となります。

④各人の納税額を算出する

その後、実際の相続割合に基づいて各人の相続額を算出します。
例えば、実際の相続割合が妻50%、息子①30%、息子②20%だった場合は以下のようになります。

妻:1,450万円×50%=725万円
息子①:1,450万円×30%=435万円
息子②:1,450万円×20%=290万円

ただし、相続税には「配偶者の特例」があり、配偶者の相続分は「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分」の高い方の額まで非課税となります。
つまり、亡くなった人の配偶者は、実際の相続額が法定相続分以下である限り、相続税は「0円」ということです。
そのため、上記の例の場合、実際の納税額は以下のようになります。

妻:0円
息子①:435万円
息子②:290万円

他にも、相続税は以下の控除を利用することができます。

・贈与税額控除:相続発生までの3年以内に贈与財産を受け取り、贈与税を納めている場合
・配偶者控除:配偶者が相続人となる場合
・未成年者控除:未成年者が相続人となる場合
・障害者控除:障害者が相続人となる場合
・相次相続控除:10年以内に2回相続が発生した場合

また、土地を相続する場合は「小規模宅地等の特例」といい、土地の評価額が最大80%減額される可能性があります。

相続税は減らすことはできる?

相続税を減らすためには、主に以下の3つの方法があります。

・相続財産を減らす
・相続財産の評価を下げる
・控除を活用する

まず、生前贈与などを利用して相続財産を減らすこと。
しかし、贈与の場合も贈与税がかかりますし、贈与税は非課税枠が相続税より少ないので、注意が必要です。
相続財産を大幅に減らして税金対策する場合には、長期的に計画を進めましょう。

相続財産の評価を下げる方法は、主に不動産に使えます。
その不動産が持つマイナス要素を把握し、評価額を下げることで、税金も減らすことができるのです。
また、土地を貸す・賃貸住宅を建てる・現金を土地に変えるなどの方法でも遺産の評価額を減らすことが可能です。

最後に、遺産相続には様々な控除があります。
例えば法定相続人が増えると、「基礎控除額」「生命保険金等の非課税枠」「死亡退職金等の非課税枠」の3つが大きくなります。
そのため、相続させたい人と養子縁組をするなど、法定相続人を増やすのも一つの方法です。
使えそうな控除は生前にしっかり調べ、対策をしておくのが大切です。

相続税の申告方法

最後に、遺産相続をして税金を納める場合の申告方法をご説明します。

相続税の納付方法と申告期限

相続税を申告・納付する期限は、相続人が相続の発生を知った日(被相続人が死亡したことを知った日)から10ヶ月以内です。
税務署に「相続税の申告書」を提出することで申告し、納税額を確定することができます。

原則的に、相続税の納付は現金一括で行います。
遺産を現金で相続した際はその中から支払えば良いですが、不動産や株式などで相続した場合、現金を用意する必要があります。

相続税の申告をしなかったら?

相続税の納付が必要なのにも関わらず、申告を行わなかった場合、税務調査が入る可能性があります。税務調査で無申告が明らかになったら、速やかに申告と納付を行わなければいけません。

相続税の無申告・滞納には、以下のような追徴課税が発生します。

・延滞税
期限の翌日から2ヶ月を経過するまで:年7.3%か特例基準割合+1%のいずれか低い割合を乗じて計算した金額
2ヶ月以降:年14.6%

・無申告加算税
税務署の調査を受ける前に自ら申告した場合:5%の割合を乗じて計算した金額
税務調査による場合:50万円まで15%、50万円を超える部分は20%の割合を乗じて計算した金額

・過少申告加算税
期限までに過少の税額を申告していて、自ら修正申告する場合:なし
税務調査による場合:追加課税額が50万円まで10%、当初の申告納税額と50万とのいずれか多い金額を超えている場合、その超える部分は15%

・重加算税(特に悪質とされるケース)
申告書を提出していた場合:35%
申告書を提出しなかった場合:40%

税務署の情報網は非常に優れていて、相続税の支払いから逃れるのはほぼ不可能です。相続税が発生したら、速やかに申告・納付を行うようにしましょう。

まとめ

遺産相続には、「相続税」という税金がかかります。相続税は基礎控除枠が大きく、その他の控除も様々なものがあるため、相続税が発生するケース自体はあまり多くありません。

しかし、相続税はいざ発生すると金額が大きくなることが多く、無申告の場合のペナルティも非常に重いです。
節税のためには生前から計画的に税金対策をすることと、相続税が発生したら速やかに申告することが重要となります。