コラム

民事信託(家族信託)のメリットとは?押さえておきたいリスクや課税についても解説

民事信託(家族信託)とは、家族など信頼できる人に自分の財産を預け、管理してもらう制度です。
高齢になり判断力が落ちたあとや、死後に遺言だけでは指定できない方法で財産を管理してもらいたい場合に活用できます。

今回は、民事信託(家族信託)を行う方法や、民事信託(家族信託)で可能になることについて詳しく解説。
民事信託(家族信託)に関わる税や、注意すべきポイントについてもご紹介します。

民事信託(家族信託)とは

民事信託(家族信託)とは、簡単に言うと「家族などに自分の財産を預け、管理してもらうこと」です。

基本的に、財産はその持ち主にしか管理できませんが、民事信託(家族信託)をしておくと受託者(家族)の判断で財産を譲渡したり、売却したりすることが可能になります。

民事信託(家族信託)の基本構造と機能

民事信託(家族信託)に関わる人には、3つの役割と名称があります。

・委託者:財産を持っている人
・受託者:財産を管理する人
・受益者:利益を受け取る人

民事信託(家族信託)では、当初は委託者=受益者になることがほとんどです。
例えば、委託者が持っている不動産を受託者が売却したり、株式を運用して委託者の生活費や医療費にあてたりする場合などがこれに当たります。
もちろん、受益者を子や孫などにして、相続税対策として財産を贈与することもできます。

民事信託(家族信託)の場合、受託者の報酬は無報酬というケースがほとんどです。
但し、受託者の義務や財産の管理、運用、処理などの事務は負担を強いるものもあります。そうした場合には受託者となった家族・親族が信託業務の対価としてもらうことは認められているということです。

信託監督人を弁護士・司法書士などに依頼する場合は、月額1万円ほどの報酬が費用としてかかる事が多いです。

民事信託(家族信託)の種類と手続き

民事信託(家族信託)を行うには、3つの方法があります。
それぞれの仕組みや、必要な手続きについて見ていきましょう。

①信託契約

一般的には、民事信託(家族信託)は信託契約によって行います。
信託契約とは、委託者と受託者の間でどのように財産を管理するか決め、契約を結ぶことです。

受益者は必ずしも関与する必要がありませんが、できれば受益者も契約の内容を知っておいたほうがトラブルは防げます。

②遺言による決定

遺言で民事信託(家族信託)を決定する場合、信託を行う時期は委託者が死亡したときになります。
基本的な信託内容は、信託契約の場合と同じです。

ただし、遺言では委託者が一方的に内容を決められるので、受託者が承諾しない場合は信託が開始されません。
実際に遺言で民事信託(家族信託)を決定する場合は、遺言作成前に受託者の承諾を得ることが多いです。

③自己信託

自己信託は、法律上は「信託宣言」と呼ばれる制度です。
委託者=受託者となる形の民事信託ですが、外から見ると信託が行われていることがわからないため、公正証書で証明する必要があります。

自己信託を行うと、信託財産に指定したものは他の財産とは切り離して考えるため、万が一経営している会社が倒産した場合などに財産を守ることができます。

民事信託(家族信託)の活用事例

民事信託(家族信託)は、以下のような場合に役立ちます。

・認知症対策
・跡継ぎ問題の解決
・倒産対策
など

①認知症対策

まず、民事信託(家族信託)が多く用いられるのは認知症対策です。
認知症になり判断力が低下すると、不動産を売却する必要があっても売却できなくなってしまったり、財産を不本意な形で消費したりする可能性があります。
そのため、認知症等で判断能力を失う前に信託契約を締結しておくことで、適切な財産管理ができるのです。

②跡継ぎ問題の解決

また、委託者が経営者の場合は、スムーズな事業承継に民事信託(家族信託)を利用する事も非常に有効です。
例えば、働いている息子を後継者として育てている最中でまだ経営者としては心配なので、経営者として成長するまではなんとか経営を見ていたいと思っている場合、民事信託(家族信託)契約を締結し、父が元気なうちは指図権を使って会社経営を父が行いつつ、長男の成長ぶりを見ながら全ての権限を長男にスムーズに移譲する事が出来ようにする事が可能になります。

③倒産対策

他にも、倒産対策として民事信託(家族信託)を利用することもできます。

先に少し触れましたが、信託宣言を行うと、対象となる信託財産は委託者の他の財産とは区別して扱われます。
万が一委託者(=受託者)が自己破産するようなことになっても、信託宣言をしている財産は強制執行されることがなく、手元に残すことができるのです。ただし、債権者を害する目的で行われる信託は「詐害信託」として取り消しの対象となるため、注意が必要です。

民事信託(家族信託)のメリット

民事信託(家族信託)を行うと得られる、7つのメリットを詳しく解説していきます。

成年後見制度より自由に財産管理ができる

判断力が低下した高齢者に代わって他者が財産を管理する制度には、民事信託(家族信託)の他に「成年後見制度」というものがあります。
しかし、成年後見制度の目的は「本人の財産を減らさないこと」なので、相続人の為に資産を運用したり増やすようなことはできません。
相続税対策として生前贈与などを行う権利も成年後見人にはありません。

民事信託(家族信託)であれば、このどちらも可能なので、成年後見制度よりも柔軟に財産を管理することができるのです。

管理処分権を1人に集約できる

例えば不動産などを複数人で共有している場合、管理や処分を行うには共有者全員の承諾が必要です。
しかし、共有者のうち一人でも判断力が低下したり意思表示が難しくなったりすると、適切なタイミングで売却することが難しくなってしまいます。

民事信託(家族信託)で共有者全員を委託者かつ受益者に設定し、受託者を一人にまとめると、受託者1人の判断で不動産の管理処分が可能になります。
これにより、適切なタイミングでスムーズに売却ができるようになり、不動産が塩漬けになるのを防ぐことができるのです。

相続方法を詳細に決められる

遺言で民事信託(家族信託)を行う場合、受託者に財産を管理してもらうことで通常の遺言よりも詳細に使い方を決めることができます。
例えば、

・配偶者などが、遺産を年金のように毎月定額で受け取れるようにしたい
・渡す予定の人や受遺者が一定の年齢になった時に遺産を渡したい
・渡す予定の人などが将来その遺産を使いきれずに死亡した場合、余った財産の貰い手を指定したい
・遺産を特定の目的のために使用してほしい

などの要望を叶えることが可能です。

三代先の数次相続まで決められる

民事信託(家族信託)では信託財産の受取人を三代先まで指定することが可能です。

これは「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」という制度で、信託が持つ「権利転換機能」を活かして事業を継承することができます。

倒産隔離機能がある

こちらも先にご紹介しましたが、民事信託(家族信託)の対象となる信託財産は、委託者が持つ他の財産とは区別されます。
委託者が破産しても、信託財産は強制執行を受けることがありません。

ただし、債権者を害する目的で行われる信託は「詐害信託」として取り消しの対象となるため、注意が必要です。

身体障害者の財産保護にも活用できる

民事信託(家族信託)は、障害者を子に持つ親などが、その子供の財産を保護する目的でも使えます。
例えば、就業不能な障害を持つ子供のために、自分たちの死後も生活費を遺したいという場合。
障害を持つ子供の兄弟や、信頼できる親族などを受託者として財産管理を任せることで、その子供の生活を保証できます。

また、障害を持つ子供が親の財産を相続し、結婚せず遺言も書けないまま死亡したなどのケースも考えられます。
その場合、障害者の親が前もって民事信託(家族信託)で3代先までの受取人を指定することで、財産が国庫に納められることを防ぐことが可能です。

公的機関や裁判所の関与不要

基本的に、民事信託(家族信託)は家族間の契約で、公的機関や裁判所は関与しません。
成年後見人制度のように、裁判所から選任された人に対して報酬などは発生しないのです。

民事信託(家族信託)のリスク・注意点

民事信託(家族信託)には、メリットだけではなくリスクもあります。
民事信託(家族信託)を検討されている方は、以下の注意点を知っておきましょう。

所得税の計算上「損益通算」できない

民事信託(家族信託)で収益不動産を信託財産とした場合、その収益不動産から発生した赤字は損益通算できません。
これは、ここまでもお伝えした通り、信託財産はその他の財産とは切り離して考えるためです。

損失の繰り越しもできないので、収益不動産を信託財産としたい場合は十分な検討が必要です。

受益者や受益権によって税が変わる

民事信託(家族信託)には、複数の種類の税金が課せられます。
民事信託(家族信託)に関して課せられる税金の種類は、以下の通り。

・委託者の生前に受益者に権利が移る:贈与税
・委託者の死亡を条件として権利が移る:相続税
・受益権が売買された場合:所得税・法人税

課税される条件やその種類をしっかり把握しておかないと、思わぬところで税が徴収されることがあるので注意しましょう。

税務申告手続き・不動産登記が必要

信託財産から年間3万円以上の収入がある場合は、12月末までの分を1月末までに税務署へ法定調書として信託計算書信託計算書合計表を提出する必要があります。

また、受益者が受益権として信託財産から不動産所得を得ている場合、不動産所得の確定申告が必要です。(その申告には、前記の信託計算書を添付すればスムーズです。)
さらに、不動産を信託財産にする場合、委託者から受託者への所有権移転登記と信託登記が必要となり、手続きの手間が発生するのはデメリットです。

受任者の能力が問われる

民事信託(家族信託)では、受託者(受任者)に財産の管理が任せられるので、当然受託者の判断能力や責任能力が問われます。
適切に財産を管理しないと、周りの親族から不興を買う可能性も。

民事信託(家族信託)の契約内容や、運用方法については必ず専門家(弁護士や司法書士)の力を借りるのがおすすめです。
もちろん相談費用はかかりますが、信託財産から得る利益や節税額が必要経費を上回る可能性もあります。

遺留分減殺請求を受ける可能性がある

民事信託(家族信託)により、特定の受益者にのみ大きな利益が出たり、法定相続人の利益を侵害したりすると、遺留分減殺請求を受ける可能性があります。
民事信託(家族信託)を利用すると柔軟な財産管理ができますが、遺留分を侵害するほどの大幅な変更は相続が発生した際、問題となるおそれがあることは知っておきましょう。

民事信託(家族信託)を行う場合の税金はどうなる?

最後に、民事信託(家族信託)を行う場合に課せられる税金について解説します。

民事信託(家族信託)で節税できるのは流通税

先にお伝えしたように、民事信託(家族信託)には贈与税・相続税・法人税が課せられます。
これらの税金は、民事信託(家族信託)を行ったからといって節税できることはほぼありません。

ただし、例えば毎年非課税の範囲内で受益者に生前贈与をするなどの方法で相続税を節約することは可能です。
しかし、これは財産の持ち主本人が行っても節税になるので、民事信託(家族信託)特有のことではありません。

民事信託(家族信託)で主に節税できるのは、財産の権利移転の際に課せられる「流通税」です。
民事信託(家族信託)なら、委託者に課せられる譲渡所得税や、受託者に課せられる不動産取得税はかかりませんし、登録免許税も通常の所有権移転の1/5です。
例えば高額な不動産の権利移転をする場合は、通常は数億円もの流通税が発生するところ、民事信託を行えば登録免許税の数百万円だけで済むこともあります。

課税対象になるのは誰?

基本的に、民事信託(家族信託)で課税対象となるのは、信託財産から利益を受ける「受益者」です。
委託者や受託者は、財産から発生する利益を受け取ることがないため課税されません。

ただし、受益者は受益権を譲渡や売却することができ、その場合は受益権を取得した新たな受益者が課税対象者となります。

まとめ

民事信託(家族信託)では、遺言や成年後見制度よりも柔軟に財産を管理することができます。
認知症などで判断力が落ちた場合の他、障害を持つ子供への支援や、倒産対策にも利用できる制度です。

また、高額な不動産を所有している場合などは、流通税を大幅に節税できます。
財産の管理方法の一つとして、民事信託(家族信託)をぜひご検討ください。