コラム

土地を生前贈与するメリットとは?費用・税金・注意点まとめ

終活の一環として、これまで蓄えてきた資産を整理する人は多いです。
その中で検討されることが多いのが、土地の生前贈与
生前贈与といえば相続税対策というイメージが強いですが、実は土地の生前贈与に関してはメリットばかりとは限りません。

今回は、土地の生前贈与について、必要な費用やその計算方法、メリットとデメリットなどをご紹介します。

土地を生前贈与するとは?

土地を生前贈与するとは、持ち主が他界する前に、贈与しておくことです。
もちろん、土地だけではなく住宅なども含めた土地家屋の贈与が可能です。

これにより、相続税を節税できる場合があるほか、相続で土地を受け継ぐよりも手続きが簡易になるなどのメリットがあります。

生前贈与と相続の違い

土地の生前贈与と相続の違いは、まず当然「土地の持ち主が生きているか、他界しているか」ということ。

その他の大きな違いは、土地の所有権を移転する時にかかる税金が、生前贈与の場合は「贈与税」、相続の場合は「相続税」となることです。

土地の評価方法

土地の生前贈与には贈与税がかかりますが、その税率や税額は土地の評価額によって決まります。
課税額を計算する元となる、土地の評価額の計算方法を知っていきましょう。

土地の評価方法には、「路線価方式」と「倍率方式」の2種類があります。

路線価方式

路線価とは、その道路に面している土地1㎡あたりの価格を国が定めたものです。
贈与税の計算だけではなく、土地の売買価格を決める時の参考にしたり、固定資産税の計算にも用いられたりします。

路線価の計算式は、「正面路線価 × 奥行価格補正率 × 面積」です。
奥行価格補正率は、その土地の用途と土地の奥行きの長さから0.8~1.0まで定められています。
角地や両面が道路に面している土地の場合、「側方路線影響加算額」「二方路線影響加算額」が加わり、路線価が上がります。

基本的に、大きな道路や駅に近い道路ほど路線価が高い(=その道路に面した土地の価格が高い)です。
各道路の路線価は、国税庁が発表している「路線価図」で確認できます。

倍率方式

倍率方式は、正面道路の路線価が定められていない土地の評価方法です。
その土地の固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて算出します。

この「一定の倍率」というのは、その土地の住所地ごとに定められています。
こちらも国税庁が毎年発表しています。
例えば、固定資産税評価額が1,000万円、倍率が1.1倍であれば、贈与税の計算に用いる土地の評価額は「1,100万円」ということになります。

土地を生前贈与する流れ

土地の生前贈与は、以下のような流れで進めていきます。

1.贈与契約書の作成
2.土地の名義変更登記
3.贈与税の申告

土地の贈与は、法律上は口約束でも効力を持つことになっています。
しかし、後のトラブルを避けたり、この後の公的な手続きを行ったりするためには、贈与契約書の作成が必要です。
贈与契約書には、「誰が・誰に・どの土地を贈与する」という内容を記載します。

名義変更登記は、法務局で手続きを行います。
専門家の手を借りず自分で行うこともできますが、必要な書類等が複雑なので、自信がない場合には司法書士に依頼することも可能です。

最後に、生前贈与する土地の評価額が110万円を超える場合は、贈与税の申告が必要です。
贈与税は土地を受け取った受贈者に課せられ、土地の評価額によって税率が異なります。
 

土地の生前贈与に発生する費用

土地の生前贈与にかかる費用には、どんなものがあるのでしょうか。
その内訳と、金額の目安や計算方法をお伝えします。

登録免許税

登録免許税は、法務局で名義変更登記を行うときにかかる費用です。贈与者・受贈者のどちらが支払うかは特に決められていません。

生前贈与を行う場合、土地の登録免許税は「土地の固定資産税評価額の2%」。
仮に、固定資産税評価額が3,000万円の土地を贈与した場合、登録免許税の金額は60万円です。
ちなみに相続の場合、登録免許税は「土地の固定資産税評価額の0.4%」です。

不動産取得税

不動産取得税は、土地の生前贈与を受けた受贈者側が支払います。
その名の通り、不動産の取得に関して課せられる税金です。

不動産取得税の計算方法は、以下のとおりです。

土地及び住宅  固定資産税評価額の3%
住宅以外の家屋 固定資産税評価額の4%

なお、宅地の課税標準金額は、固定資産税評価額の2分の1となります。
ちなみに、こちらは適用期日が令和3年3月31日までの税率です。

贈与税

贈与税は土地などの不動産を含む財産の贈与があった時、受贈者側に課せられる税金です。
贈与税には非課税となる控除枠があり、その金額は年間110万円です。贈与された土地の評価額が110万円を超える場合に限って、贈与税が課せられます。

贈与税は贈与額が大きくなるほど税率も高くなる累進課税で、税率は10~55%となっています。

専門家への手数料

土地の生前贈与を行うにあたって、司法書士や税理士に相談する場合、専門家に支払う手数料も必要になります。
ちなみに、不動産登記に関する手続きを代理人として行えるのは司法書士と弁護士のみで、贈与税の申告手続きを代理人として行えるのは税理士のみです。
司法書士への報酬は約5万円、税理士への報酬は5~10万円ほどが相場です。

土地を生前贈与するメリット・デメリット

それでは、土地を生前贈与することのメリットとデメリットを見ていきましょう。

生前贈与のメリット

土地を生前贈与する主なメリットは、譲る相手を指定できることと、相続税が節税できる可能性があることです。

特定の人に譲ることができる

遺言なしで法定相続分通りに相続をする場合、法律で決められているのは遺産の取り分(割合)だけで、具体的な品目の指定はありません。
その点、生前贈与であれば「どの土地を誰に譲る」ということを自分で判断し、決めることができます。

遺言で土地を相続させる相手を指定することは可能ですが、相続放棄したり、遺留分減殺請求があったりした場合などは故人の思い通りに土地を譲れないこともあることは知っておきましょう。

節税になることがある

相続税の方が贈与税より税率が低く、また控除額も大きいので、基本的には相続で土地を受け継いだ方が税金は安いです。

しかし、生前贈与した土地から収益を得ている場合、生前贈与を行ったあとは土地から生まれる収益も受贈者のものになります。
そのため、生前贈与を行うかどうかで、土地の持ち主が死亡時に持っている預貯金の額が変わり、相続税の税率に影響がある場合も。
多額の不動産収入がある場合には、生前贈与を行った方が遺産総額は減り、相続税の節約になることもあるのです。

また、贈与税の非課税枠を利用して、毎年評価額が110万円以下になるように土地を分割し、暦年贈与するという方法でも相続税が節税できます。

土地の価値が上がれば得

先にもお伝えした通り、土地の生前贈与で贈与税の課税基準となるのは、その土地の評価額です。
相続の場合も、土地の評価額が遺産総額に算入されるため、生前贈与してから亡くなるまでに土地の価値が上がりそうな場合は生前贈与の方が得です。

所有している土地の周辺で都市開発が決まっているなど、土地の価格が上がる見込みがあればこのメリットが大きいでしょう。

生前贈与のデメリット

生前贈与には、メリットだけではなくデメリットもあることは知っておきましょう。

不動産取得税・登録免許税がある

相続で土地を譲り受けた場合、不動産取得税は発生しません。
また、登録免許税の税率も、相続の場合は固定資産税評価額の0.4%に軽減されます。

対して、生前贈与の場合は固定資産税評価額の3%の不動産所得税と、固定資産税評価額の2%の登録免許税がかかります。
そのため、他の部分でこれらを超える利益が出ない場合は、生前贈与のデメリットの方が大きいと言えるでしょう。

維持費は受贈者が負担する

生前贈与が行われた以降、土地から発生する収益は受贈者のものになりますが、当然土地の維持管理費も受贈者の負担になります。
生前贈与を行わなければ、後に遺産となる預貯金が土地の維持管理費で減り、相続税も節税できるという可能性があるのです。

土地の維持にかかる費用よりも、贈与での節税効果の方が大きくないと、土地を生前贈与する意味はありません。

土地の生前贈与における節税策

土地の生前贈与を行う際、利用できる節税策を3つご紹介します。

配偶者控除

婚姻期間が20年を過ぎた配偶者に対して、「居住用の不動産」または「居住用の不動産取得のためのお金」を贈与する場合には、配偶者控除が使えます。

これは、通常の贈与税の非課税枠に、2,000万円までの非課税枠が加わるものです。
つまり、通常の非課税枠110万円と合計すると、2,110万円相当の土地の贈与が贈与税ゼロで行えます。

ただし、この配偶者控除は自ら申告を行わないと適用されない制度なので、利用する場合には手続きを忘れないようにしましょう。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、子供や孫に土地を生前贈与する場合にのみ使える制度です。
この制度を利用すると、最大2,500万円までの贈与に贈与税がかかりません。
また、2,500万円を超える部分についても贈与税の税率が一律20%となります。

ただし、2,500万円以下の不動産なら無税で贈与できるのかというとそうではなく、遺産の相続時には「生前贈与された財産」と「相続財産」を合わせた金額に相続税がかかります。
実質的には、税金の発生を先送りにできるという制度です。

暦年贈与

暦年贈与とは、110万円の贈与税の非課税枠を利用して、複数年かけて一部ずつ土地を贈与していく方法です。
この方法であれば、配偶者以外にも贈与税ゼロで土地を生前贈与することが可能になります。
また、非課税の範囲内であれば税務署への申告も不要なため、手続きの手間を省くこともできます。

相続より生前贈与が良い場合とは

繰り返しになりますが、税金の面では基本的に相続で土地を受け継いだ方が生前贈与よりもお得です。
その上で、生前贈与がおすすめできるケースは以下の通り。

・確実に特定の相手に土地を譲りたい場合
・亡くなるまでに土地の大幅な値上がりが見込める場合
・土地から大きな収益を得ている場合

土地を複数所有している場合には、上記のような土地から優先して生前贈与した方が良いとも言えます。

まとめ

生前贈与は相続税対策というイメージが強いですが、土地の生前贈与が結果的に得になるかどうかはケースバイケースです。
今回ご紹介したメリット・デメリットを比べて、生前贈与が必要かどうかを検討してみましょう。

土地の生前贈与には名義変更登記などの複雑な手続きも必要になるため、まずは専門家に相談するのがおすすめです。