持ち家に住んでいたり、収益不動産を持っていたりする場合には、所有者の没後に不動産相続が発生します。
不動産は現金のように単純に分けられるものではなく、評価額もわかりづらいのでトラブルの種になりがちです。
今回は、そんな不動産相続について詳しくご紹介いたします。
法定相続人が公平に分割する方法や、ケース別の解決方法についても解説します。
不動産相続でまずすべきこと
不動産相続が発生した時にまずすべきことは、「遺言書の確認」です。
遺言書があるのと無いのでは、この後の手続きや遺産の分け方に違いがあります。
相続手続きが全て終わったあとで遺言書が発見された場合など、手続きが非常にややこしくなるため、相続を始める前に必ず遺言書の有無を確認しましょう。
不動産相続の登記の方法
不動産相続が発生する場合、故人から相続する人へ名義変更登記を行います。
相続登記の流れと、それに必要な書類を見ていきましょう。
相続登記の流れ
相続登記の流れを簡単にまとめると、以下のようになります。
1.遺言書の確認
2.(遺言書が無い場合)全ての法定相続人の洗い出し
3.全ての財産の確認
4.(遺言書が無い場合)遺産分割協議
5.法定相続人を確定し、相続登記
6.完了書類を保管
7.相続税が発生する場合、納付
まず、相続登記を行う前には誰がその不動産を相続するのか確定させる必要があります。
遺言書で受遺者が指定されている場合は、その人が相続人です。
遺言がなかったり、不動産の受遺者について指定されていなかったりといった場合には、戸籍等から関係を整理し、まず法定相続人となる人全員と、不動産を含む全財産を洗い出します。
その後、遺産分割協議を行って誰がその不動産を相続するか決め、相続登記の手続きを行うことになります。
相続登記の手続きは、法務局に必要書類の提出と登録免許税の払い込みを行うと完了です。
相続登記が終わった後は交付された書類を大切に保管し、相続税が発生する場合には納付を行います。
相続登記に必要な書類
相続登記に必要な書類は、遺言書がある場合とない場合で異なりますが下記のようなものが必要となります。
・登記申請書
・遺言書(ある場合)
・遺言執行者の選任審判書謄本(遺言執行者が指定されている場合)
・被相続人の戸籍謄本(出生時から死亡時まで全ての戸籍謄本)
・被相続人の住民票の除票(本籍の記載があるもの)
・不動産の登記事項証明書
・不動産を相続する人の住民票
・不動産の固定資産評価証明書
・法定相続人全員の戸籍謄本(被相続人死亡日以降のもの)
・遺産分割協議書
・遺産分割協議に参加した人全員の印鑑証明書
不動産相続での遺産分割方法
不動産は現金のように均等に分けるというわけにはいかないため、様々な分割方法があります。
不動産相続で用いられる、4種類の分割方法について知っていきましょう。
現物分割
現物分割とは、それぞれの財産の形を変えず、そのまま相続することです。
例えば、評価額3,000万円の不動産と、預貯金3,000万円の財産を相続する時に「子①は3,000万円相当の不動産」「子②は預貯金3,000万円」などのように相続することです。
この場合、不動産の相続手続きは名義変更登記を行うだけなのでシンプルです。
名義変更の手続きには特に期限がなく、法務局などから名義変更を促されることもありません。
しかし、名義変更登記をしておかないと、その不動産を売却したり、抵当権を設定したりすることができないため、なるべく速やかに手続きを行いましょう。
代償分割
代償分割とは、不動産など単純に分割できない財産を相続した人が、他の法定相続人に相続分に見合う現金を渡して釣り合いを取る方法です。
例えば、評価額3,000万円の不動産と預貯金1,500万円を相続する場合、「子①が不動産を相続+子②に750万円の支払い」、子②は「預貯金1,500万円を相続+子①から750万円を受け取る」という分割方法です。
それぞれ手にする財産の種類は異なりますが、現金のやり取りによって公平性を保つことができます。
換価分割
換価分割とは、不動産など分割できない財産を売却して、その売却益を法定相続人が公平に分ける方法です。
例えば被相続人の財産が評価額3,000万円の不動産のみなら、これを売却して現金3,000万円に変え、「子①1,500万円」「子②1,500万円」という風に相続します。
共有
不動産など分割できない財産を手放したくない場合には、共有という方法があります。
これは、不動産の所有権を相続人同士で共有することです。
仮に子供2人で相続した場合、それぞれその不動産に対して1/2ずつの権利を持つことになります。
不動産自体を分割したというわけではないので、その子供2人どちらもが等しい権利を持ってその不動産全体を使うことができます。
売却などを行う場合には、所有権を持つ人全ての同意が必要です。
不動産を売却したり、賃貸に出したりして得た利益は、持分に合わせて分配されます。
不動産相続時に発生する費用・税金
不動産相続を行う時には、相続税や名義変更のための費用がかかります。
相続税の計算方法
相続税は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」までの財産に対しては非課税です。
不動産の評価額と、預貯金など他の財産を合わせた総額がこの金額以下であれば、相続税はかかりません。
不動産の相続税の計算には、まず相続する不動産の評価額を算出する必要があります。
不動産の評価額を算出するには、路線価に面積を乗じて、さらに各種の補正率を加味するなど複雑な計算が必要です。
また、建物が立っている場合には経年劣化により時価が変わるので、より計算が複雑になります。
不動産鑑定士や税理士といった専門家の力を借りないと、素人に正確な評価額を計算するのは難しいでしょう。
そして、この不動産評価額と預貯金などの課税遺産総額を算出し、相続する分に以下の税率をかけて相続税の総額を算出します。
1,000万円以下:10%
3,000万円以下:15%(控除額50万円)
5,000万円以下:20%(控除額200万円)
1億円以下:30%(控除額700万円)
2億円以下:40%(控除額1,700万円)
3億円以下:45%(控除額2,700万円)
6億円以下:50%(控除額4,200万円)
6億円以上:55%(控除額7,200万円)
相続税以外にかかる費用
相続税以外には、名義変更登記の際にかかる登録免許税や必要書類の取得費用、専門家に手続きを依頼する場合の報酬などがかかります。
登録免許税
不動産の相続登記の登録免許税は、相続する不動産の「固定資産税評価額の0.4%」です。
例えば、固定資産税評価額3,000万円の土地なら、登録免許税は12万円です。
この登録免許税は、不動産を相続した人が法務局に対して支払います。
必要書類の取得・郵送費用
先にもお伝えしましたが、不動産の相続には「住民票」「戸籍謄本」「登記事項証明書」など各種証明書が必要です。
これらの発行費用は1部あたり300~800円ほど。相続人の数や相続する不動産の数にもよりますが、だいたい3,000~10,000円くらい見込んでおけば良いでしょう。
また、登記手続きなどを郵送で行う場合、封筒代や切手代もかかります。
専門家への報酬
相続登記の手続きは、専門家である司法書士に依頼する方が多いです。
その場合の報酬は、だいたい10万円前後。
自分で手続きすることは不可能ではありませんが、書類を取り寄せたり法務局に足を運んだりする必要がなく完了します。
不動産相続で押さえておきたいポイント
それでは、不動産相続について押さえておきたいポイントを、相続した不動産の種類ごとに解説します。
土地だけを相続した時
土地だけを相続した場合、評価額の計算は建物が建っている場合よりもシンプルです。
複数人で分割したい場合も、分筆手続きがスムーズに進みます。
ただし、土地の相続は、いったん手続きを完了してしまうと、後からの変更が難しいです。
例えば他人に売却してしまった場合、後から買い戻すことはほぼ不可能です。
また、土地は価格の変動が大きいため、相続時の分割では公平でも、後から大幅に地価が上昇して他の相続人から不満が挙がるなどの可能性も考えられます。
戸建て物件を相続した時
戸建て物件は、特に思い入れのある実家などの場合トラブルに発展するリスクが高いです。
相続人の中で、「更地にして売却したい」「実家を壊したり、売ったりするなんて許さない」など、意見が分かれがち。
こういったケースについては、法定相続人全員が納得いくよう生前に話し合いを重ね、遺言書を残しておくと良いでしょう。
また、2020年4月1日から「配偶者居住権」という新たな権利が創設されました。
これは、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として,終身又は 一定期間,配偶者に建物の使用を認めることを内容とする法定の権利の事です。
しかし、配偶者居住権の設定には登記が必要で手間がかかるため、メリットとデメリットを比較してよく検討する必要があります。
マンションを相続した時
マンションの場合、同じ床面積の戸建と比べると評価額が低くなりやすいです。
そのため、相続税対策のために、戸建からマンションに住み替える人もいます。
ただし、マンションを相続した場合、、立地によっては、築年数が経つにつれて価値が下がりやすい事もありますのでご注意下さい。
また、修繕積立金や管理費は相続人の負担になりますので、本人や家族がその部屋に居住しない場合は早めに賃貸や売却を考えた方が良いでしょう。
不動産相続の「こんな時はどうする?」
最後に、不動産相続に関して起こりうるケースと、その解決方法をご紹介します。
複数の兄弟で共有名義にしたい
実家などの建物を残して相続する場合、不動産を複数の兄弟で共有名義にしたいという人も多いでしょう。
もちろんそれは可能で、不動産の名義変更の際にそれぞれの持分で登記を行えば、不動産の所有権を共有できます。
ただし、この方法はのちに不動産を売却したくなった時や、共有者の一人でも認知症になったり死亡したりした時にトラブルが起こりやすいため注意しましょう。
相続した不動産を売却したい
相続した不動産を売却したい場合は、名義変更登記後に売却すれば、一般的な不動産の売却となんら変わりはありません。
換価分割を目的として、複数人で売却益を分ける前提で売却する時も、いったん被相続人から法定相続人に名義変更登記を行ってから売却します。
この時、不動産の所有権を持つのは、法定相続人全員でも、代表者を選んでも問題ありません。
売主が複数人になると手続きが煩雑になるので、代表の1人にいったん所有権を移した方がよりスムーズです。
不動産の相続を放棄することは可能
相続する不動産の価値が低かったり、相続後にコストがかかりすぎたりなどでデメリットが大きい場合、不動産の相続放棄をすることもできます。
ただし、不動産を完全に誰のものでもなくすということは不可能で、1人が相続放棄をすれば、他の法定相続人が相続登記を行い、その後売却などをして他者に所有権を譲ることになります。
法定相続人が全員相続放棄をした場合、被相続人の債権者が競売等で回収→特別縁故者→国という順で相続する権利が移っていきます。
この場合、誰かが所有権を持つまで不動産の登記名義人は被相続人です。
相続放棄をすることで法定相続人に固定資産税の負担は無くなります。
しかし、不動産の相続放棄をすると、他の財産の相続も一括で放棄することになります。
「家はいらないけど、預貯金は欲しい」というようなことはできないので、相続放棄の際は注意が必要です。
まとめ
不動産相続は、「誰が相続するのか」「どのように相続するのか」が鍵です。
相続登記の手続き自体もそれなりに複雑ですが、まずは相続する人を決めるために時間と労力がかかります。
被相続人による遺言書が残されていればスムーズに進むため、不動産を所有している方は、法的に効力を持つ遺言書を作成しておくことをおすすめいたします。