コラム

家族信託契約書を自分で作成することは可能?作成時のポイントを解説

家族信託は「家族信託契約書」を作成することから始まります。
家族信託契約書とは、その名の通り家族信託の契約内容を記載した書類のことです。
ネット上のひな形を使えば自分で作成することもできますが、内容に不備があると、のちにトラブルを引き起こすこともあります。

今回は、家族信託契約書に記載する内容や、作成時の注意点について解説していきます。

家族信託契約書の書き方

家族信託を始めるには、まずその内容を定めた「家族信託契約書」を作成する必要があります。
受託者は、契約書に記載された内容に限って、委託者の財産を管理する権限を持ちます。

まずは、家族信託契約書に記載する内容と、その書き方について解説します。

契約書に記載が必要な内容

家族信託契約書には、以下の内容を記載します。
ここで解説するのは最低限必要なもので、契約次第では他の項目が含まれる場合もあります。

契約の趣旨・目的

まず、「契約の趣旨」「信託目的」を記載します。
「契約の趣旨」とは、「この契約書で締結する契約が、信託契約である」ということを明らかにするものです。

次に、「信託目的」には、その名の通り「なぜ信託契約をするのか」を書くのですが、これはケースによって異なります。
例えば、信託の目的としては以下のようなものが考えられます。

・財産管理の負担を減らすため
・残された配偶者が従前と変わらず安定した生活を送れるようにするため
・後妻の安定した生活と前妻との子供との利益調整をはかるため
・浪費癖のある元妻がいる場合の子供への安定した給付をするため
・幼い子のための財産保全のため
・障害がある子のための財産管理と生活費の支給のため
・円滑に事業承継をするため


受託者はこの目的に沿って財産を管理することになるため、誤解や曖昧なところがない文言にする必要があります。

委託者・受託者・受益者氏名

次に、委託者・受託者・受益者の氏名を記載します。
委託者・受託者・受益者とは、家族信託契約に関わる人の3つの役割で、それぞれの意味は以下の通りです。

・委託者:財産の管理を委託する人(財産の持ち主)
・受託者:財産の管理を請け負う人
・受益者:財産を管理することの利益を受け取る人


例えば、「自分が認知症になったら、子供に自分の家を売ってもらい、それを自分の医療費等に充ててほしい」という場合。このケースだと、委託者=受益者=自分、受託者=子供ということになります。
また、「自分の死後、子供に財産を管理してもらい、高齢の妻の生活費に充てて欲しい」という場合だと、委託者=自分、受託者=子供、受益者=妻となります。

受益者は個人ではなく法人や、将来生まれる胎児、今は存在していない子孫などでも問題ありません。
受益者を複数人にすることも可能です。

ちなみに、家族信託契約の締結には、委託者と受託者の合意が必要です。
受益者はもちろん契約内容を理解しているのが理想的ですが、特に同意は問われません。

信託財産の詳細

次に必要なのが、信託財産の詳細です。
家族信託で信託財産に含めることができるのは、以下の財産です。

・現金
・不動産
・株式(場合により可)
・車、バイク、船舶など
・美術品、貴金属、骨董品など
・家畜、ペットなど


基本的に、極端に資産価値がないもの以外は、どんな持ち物でも信託財産に含めることができます。
ただし、不動産の中でも農地は、農業委員会の許可が得られなければ、信託財産にできません。また、株式の中でも上場会社の株式は、証券会社が家族信託に対応していない場合は信託財産にできないことがあります。

家族信託契約書には、信託財産に含めるものをリストアップし、その目録を掲載します。

家族信託契約書のひな形

家族信託契約書のひな形は、ネット上の様々なサイトで無料のテンプレートが配布されています。
司法書士など専門家と相談しながら作成する場合は、ひな形の作成も内容の記載も専門家側が行ってくれます。

家族信託の契約書は自分で作成可能?

先にお伝えしたように、家族信託契約書は、無料のテンプレートなどを使って自分で作成することも可能です。

しかし、家族信託契約は気軽に締結していいものではなく、高度な専門知識が必要な難しい契約です。
基本的には、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。

司法書士など専門家への依頼がおすすめ

家族信託について専門家に相談する場合、司法書士・弁護士・税理士の3つの選択肢が考えられます。
この中でもっともおすすめなのは、司法書士です。
なぜなら、司法書士は不動産の登記や法手続きの専門家であるためです。

弁護士は法律の専門家、税理士は税金の専門家ですが、登記手続き等には明るくないため、結局その部分は司法書士に依頼することになります。
「信託や相続に関して訴訟が起きそう」「財産の額が大きく、節税がメインの目的」という場合以外は、まずは司法書士に相談しましょう。

また、司法書士なら誰でも家族信託に精通しているというわけではありません。
家族信託は2007年から施行された比較的新しい制度で、最新の事例を熟知していることが重要です。
そのため、ホームページに信託や相続についての情報を掲載したりしているなど、家族信託に強い司法書士を選ぶのがおすすめです。

専門家に依頼した際の費用

家族信託を司法書士に依頼した場合の費用の目安は、以下の通り。

信託財産に不動産がない場合:40~70万円
信託財産に不動産がある場合:50~100万円


この費用には、司法書士の報酬だけではなく、登録免許税などの法定費用も含まれます。
基本的には、信託財産の評価額が大きくなるほど、必要な費用も高くなります。

家族信託契約書を作成する時のポイント

最後に、家族信託契約書を作成するときのポイントを解説していきます。

ひな型にとらわれ過ぎない

先に解説したように、ネット上にはたくさん家族信託契約書のひな形が公開されていますので、これらを利用すれば法的に問題ない契約書を作成できる可能性もありますが、あくまでもネットの情報ですので専門家から見ると法的におかしいひな形も多数見受けられますので、注意が必要です。

また、ネット上にあるひな形は、概ね、どんな人でも利用できるように汎用性の高い内容になっていますので、個々のケースには詳細に対応できない場合が多いです。
そうすると、当事者の思いとは違った内容の契約になってしまうおそれがあります。
したがって、専門家に相談し、しっかり思い通りの内容のオーダーメイドな契約書を作るのがおすすめです。

作成後には公正証書化する

公正証書化とは、公証役場で承認を受け、家族信託契約書の内容を公に証明することです。
家族信託契約書は私文書であっても効力は発生しますが、原則的には公正証書化することが必須です。

家族信託契約書を公正証書化するのには、以下のメリットがあります。

・事前に内容をチェックしてもらえる
・原本が公証役場に保管されるため、偽造・改ざん・紛失などのリスクがない


家族信託契約は大きなお金や家族の信頼関係が絡むこともあり、不明瞭な内容ではのちにトラブルに発展するリスクがあります。
手数料などの費用はかかりますが、基本的に家族信託契約書は公正証書化しておきましょう。

まとめ

家族信託契約書は、ネット上のひな形を使えば個人で作成することができます。
しかし、汎用性の高いひな形では個々のケースに対応しきれないこともあります。

法的に問題がなく、自分の思いを反映した契約書を作成するためには、司法書士などの専門家に相談するのがおすすめです。
家族信託契約書の作成は、最新の事例も熟知している家族信託に強い司法書士に依頼しましょう。