コラム

任意後見制度のデメリットとは?

近年日本でも社会問題となっている高齢者の増加。それに伴い利用されることが多くなってきた、「任意後見制度」はご存知でしょうか?

法律に詳しくない方だとあまり聞き馴染みのない制度かもしれませんが、正しい知識を持っていないと、制度を悪用する人に騙されたり、デメリットをよく知らないまま利用してしまったりというリスクもあるので注意が必要です。

そこで今回は任意後見制度について、どんなデメリットやリスクがあるのか詳しく解説していきます。

任意後見制度とはどんな制度か

任意後見制度というのは一体どのような制度なのでしょうか。

まずは、任意後見制度について詳しく解説していきます。

任意後見制度とは

任意後見制度とは、契約など重要な決断をする判断能力がなくなってしまう前に、あらかじめ支援をしてくれる人を定めて契約しておくことで、判断能力を失った後に財産の管理や日常事務などの仕事を任せられる制度です。

この財産や日常事務などの仕事を任せる人を、「任意後見人」といいます。

任意後見人になれる人

任意後見人には、契約でお願いされた人は誰でもなれることができます。

もっとも民法では任意後見人になれない人の事由を定めており、以下に当てはまる人は任意後見になれることはできないので注意が必要です。

第八百四十七条 次に掲げる者は、後見人となることができない。
一 未成年者
二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
三 破産者
四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
五 行方の知れない者
(引用元:民法847条)

手続きの流れ

任意後見人を定める際は、以下のような手続きで契約が行われます。

1. 将来、高齢になったときに契約などの重要な判断をできるか不安が出てきたら、任意後見人を定めることを決める
2. 家族や司法書士などの専門家と任意後見人が、何を行うのか詳しい内容を定めた任意後見契約を締結する
3. 認知症やアルツハイマーなど、判断能力に影響のある症状が出るようになった
4. 家庭裁判所に対して申し立てを行い、任意後見監督人を定める
5. 任意後見人の業務を開始

かかる費用と報酬の相場

任意後見人を定めるとき、定めない場合とは異なり費用と報酬が必要になります。

必ずかかる費用としては、任意後見契約書を作成する際の公証人への手数料が挙げられます。任意後見契約書の枚数にもよりますが、金額は約3万円です。

報酬は親族などに依頼するのであれば無償であることも多いですが、司法書士や弁護士などの専門家に依頼する場合は月額数万円程度はかかるので、事前に把握しておきましょう。

任意後見制度にはデメリットも

決断能力が低下してしまった高齢者などには、任意後見制度は非常に助かるものと言えるでしょう。しかし、この制度にはメリットだけでなくデメリットもあるので、利用にあたっては注意が必要です。

ここからは、任意後見制度についてのデメリットについて詳しく解説していきます。

任意後見制度の問題点

任意後見制度の問題点としては、以下の6つが挙げられます。
以下でそれぞれについて詳しく解説するので、任意後見制度を利用する前にしっかりとこの問題点を把握しておきましょう。

1. 本人が行った契約は取り消せない
2. 契約に書かれていないことはできない
3. 費用がかかる
4. 本人の判断能力が低下してからは契約できない
5. 死後の事務処理や財産管理の依頼はできない
6. 定期的な事務報告書が必要

①本人が行った契約は取り消せない

任意後見制度を利用していても、本人が行った契約は取り消すことができません。

任意後見人は、あくまで契約によって定められたことを行う本人の「代理人」です。契約ではすべきことが決められており、同意権や取消権などは任意後見人には与えられていません。
そのため、本人の意思に基づいて行った契約が締結されたのちに、その契約を取り消すことはできないのです。

任意後見人を定めた後は、判断能力が低下していることにつけこんだ悪質な詐欺などに騙されないよう、任意後見人がしっかりとチェックする必要があるでしょう。

②契約に書かれていないことはできない

任意後見人は、被後見人に判断能力がある時点で、「契約」によってやるべきことを定めます。

契約では、主に財産を管理する業務と日常生活に関する監護に関して、委任することを定めることが可能です。
事前に契約に定めていないことを、代理で行うことはできません。例えば、介護サービスを利用するための契約や日常生活に関係したサービスなどについてのみ定めていた場合、財産の管理などに関しての委任をすることはできないのです。

任意後見人を定める場合は、事前に契約の内容をしっかりと定めておくことが必要となるでしょう。

③費用がかかる

任意後見制度には、費用がかかります。

まず、任意後見人を定めるにあたって、公正証書を作成する必要があります。公正証書の作成費用は以下の通りです。

・公正証書の手数料→10,000円
・登記嘱託手数料→1,400円
・登記所に納付する印紙代→2,600円

また、任意後見人制度の利用には報酬が必要な点も注意しましょう。
親族に任意後見人を頼むのであれば、報酬は無報酬となることが大多数です。
一方で司法書士などの専門家に依頼する場合、報酬が必要となります。相場としては月額数万円程度で、被後見人本人の財産から支払われることになります。

なお、任意後見監督人を定めた場合にも報酬の支払いが必要です。この報酬は家庭裁判所が決めることになります。

④本人の判断能力が低下してからは契約できない

認知症などによって、本人の判断能力がすでに著しく低下してしまっていると、任意後見契約を結ぶことはできません。

すでに判断能力が低下している場合は、法定後見制度という別の制度を利用する必要があります。

⑤死後の事務処理や財産管理の依頼はできない

任意後見人契約は被後見人の死亡と同時に終了するので、死後の事務処理や財産管理の依頼をすることはできません。
これらの依頼をしたい場合、任意後見契約とは別の契約として「死後事務委任契約」を結んでおく必要があります。

死後の財産管理や事務処理なども必要であれば、任意後見人契約を結ぶ際、別途死後における事務委任契約もしっかりと結んでおきましょう。

⑥定期的な事務報告書が必要

任意後見人は、定期的に事務報告書を作成する必要があります。3ヶ月から6ヶ月に一度、任意後見監督人に対して財産目録や収支報告書を提出しなければなりません。

これは、任意後見人が本人の財産などを不当に利用していないかを確認するためにも重要な書類ですが、実際の内容はそれほど難しいことを要求されるわけではないので安心してください。
とはいえ、慣れていないと手間がかかり時間も必要なので、司法書士などの専門家に依頼するのがいいでしょう。

任意後見制度を悪用したトラブル例

任意後見制度は民法で定められた公的な制度ですが、公的なものであることを強調することで高齢者を安心させ、財産侵害を行うなどの悪用例もあるのが事実です。

特によくある例が、法律の専門家であることを強調し、本人には何の利益にもならない財産の処分や契約を行うことで、不当な利益を得るというケースになります。

代表的な任意後見制度を悪用したトラブル例は、以下の通り。事前に確認しておきましょう。

・投資詐欺
・必要ない家のリフォーム
・不動産を著しく安い価格で売却
・財産の横領行為

トラブルを防ぐためにできること

こういったトラブルを防ぐためには、安心できる任意後見人を選ぶことが重要です。

親族間であっても任意後見制度の悪用例は多いので、できるだけ司法書士などの専門家に依頼しましょう。

任意後見制度が適しているケース

任意後見制度はどういった人に適しているのでしょうか。
実際に任意後見制度を活用した方が良いであろうケースについて紹介します。

親・配偶者に認知症の心配がある

親・配偶者に認知症の心配がある場合、任意後見制度を活用した方が良いでしょう。

現在は元気であったとしても、認知症などの発症はいつ起こるかわかりません。やはり将来の不安がある場合は、任意後見制度を利用することで不安を解消するべきでしょう。

未成年の子どもに障がいがある

未成年のお子様に障がいがある場合も、任意後見制度を利用した方が良いでしょう。

障がいがある場合、将来的に判断能力が低下した際に適切な財産管理や日常事務の処理などを望めないことがあります。また、成人した際に財産管理ができないと判断されると、法定後見制度を利用しなければなりません。

ご自身とお子様本人が安心して未来を迎えるためにも、任意後見制度を利用して事前に問題を解決しておきましょう。

まとめ

今回は任意後見制度のデメリットやリスクについて詳しく解説してきました。

任意後見制度は正しく活用することができれば、将来を安心して迎えることができる制度です。
しかし、任意後見人でも契約にないことはできなかったり、被後見人の死後のことは定められなかったりと、柔軟な運用はできないという点もあります。

自由な財産管理や相続対策を行うなら、家族信託がおすすめです。
自分や親の万一の場合に備えて、ぜひ司法書士などの専門家に相談しましょう。