家なき子特例とは、相続税における「小規模宅地等の特例」に関連する用語です。
親と同居していない子供でも、家なき子特例の適用を受けることができれば、相続税を節約することができます。
今回は、家なき子特例の概要や、適用を受けるための条件について詳しく解説いたします。
家なき子特例を利用して、もっともお得に節税する方法もお伝えします。
家なき子特例の概要
まずは、家なき子特例の概要と、制度の背景について解説していきます。
家なき子特例とは
小規模宅地等の特例では、被相続人が住んでいた住宅や土地を、以下の条件に合致する人が相続した場合、相続税が軽減されます。
・被相続人の配偶者
・被相続人の同居人
・被相続人に配偶者も同居人もいない場合、3年間借家住まいの相続人
この3つ目が、家なき子特例です。
つまり、被相続人が持ち家で一人暮らしをしていて、この持ち家に過去3年間住んでいない相続人(主に子供)がいる場合、家なき子特例が適用されるということです。
作られた背景
小規模宅地の特例は、親と同居していた子どもが、相続税を納めるために住む場所を失うことがないよう配慮された制度です。
そのため、小規模宅地の特例が適用されるには、基本的には親と同居していたことが要件となっています。
しかし、様々な事情で親と同居していない人は多数います。
また、親の持ち家で同居していれば家賃がかからないことなども考えると、同居していない子供への負担が大きすぎると言えます。
そのバランスを調整するために、家なき子特例が設けられました。
また、もう一つの背景として「空き家問題」があります。
親が亡くなって空いた家に、相続した子が住めるように配慮することで、空き家の増加を防ぐ目的もあるのです。
適用面積・減額率
家なき子特例が適用されるのは、被相続人が住んでいた土地です。
事業を行っていた土地や、賃貸に出していた土地には適用されません。
また、限度面積は330㎡です。
それを超える広さの土地の場合、330㎡までの部分だけが減額されます。
減額率は80%で、仮に評価額が1億円の土地の場合、2,000万円の部分にのみ相続税が課されます。
家なき子特例適用の要件
それでは、家なき子特例が適用される要件について、詳しく見ていきましょう。
①被相続人に、配偶者や同居していた相続人がいない
被相続人に配偶者(同居の有無を問わず)や、同居していた相続人がいる場合、その人に小規模宅地等の特例が適用されます。
家なき子特例に該当する人が被相続人の自宅を相続したとしても、特例は適用されません。
②3年以内に自分の持ち家に住んでいない
次の条件は、3年以内に自分の持ち家に住んでいないことです。
持ち家がない場合はもちろん、あくまでも住んでいなければ問題ないので、持ち家を賃貸に出し、自分は別の場所に住んでいた場合なども適用されます。
また、対象になるのは日本国内の持ち家だけなので、海外に家を所有し、そこに居住していた場合にも、家なき子特例の対象です。
③相続から10ヶ月以内に売却・譲渡しない
家なき子特例の適用を受ける場合、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月(相続税の申告期限)以内にその家を売却・譲渡してはいけません。
ちなみに、家なき子特例の適用を受けた相続人は、必ずしもその家に住む必要はなく、一度も入居せずに期限まで放置したり、賃貸に出したとしても特例を受けられます。
④日本国籍を持っている
家なき子特例が適用されるのは、日本国籍を持っている人のみです。
日本出身であっても、他の国に帰化した人などは対象外となっています。
なお、下記でご紹介しますが、平成30年4月1日の税制改正で、家なき子特例の要件がさらに追加されました。
家なき子特例を受けるためには
次に、家なき子特例を受けるために必要な書類と、申告方法をお伝えします。
必要書類
家なき子特例を受けるのに必要な書類は、以下の通りです。
相続税の申告書等(国税庁のホームページからダウンロードして記載)
・第11・11の2表の付表1
・第11・11の2表の付表2の1
・第11・11の2表の付表2の2
・第11・11の2表の付表2の3
添付書類
・戸籍の附票の写し
・相続開始前3年以内に自己、自己の配偶者、3親等以内の親族、特別の関係がある法人の所有する住宅に住んでいないことを証明する書類
・相続開始時に居住している家屋を過去に所有していたことがないことを証明する書類
戸籍の附票は、これまでの住所の変遷が記載されたものを用意します。
また、作成日は故人が亡くなった後である必要があります。
申告方法
家なき子特例の申告書への記載方法は、小規模宅地等の特例と同様です。
上記でご紹介した申告書に必要事項を記載し、他の書類とまとめて相続税の申告を行います。
相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に、納税地を所轄する税務署に必要書類を提出して行います。
家なき子特例は税制改正でどう変わった?
平成30年度税制改正で、家なき子特例の内容が一部改正されています。
ここからは、その内容について、詳しく解説します。
追加された要件
現在の家なき子特例の要件には、以下の2項目が追加されています。
その家を所有したことがない
家なき子特例は、相続開始時に居住している家を所有したことがある場合、利用することができません。
改正以前は、家なき子特例の適用を受けるために、それまでに住んでいた家を一度売り、賃貸という形(いわゆるリースバック)で居住し続けるケースがありました。
そういった抜け穴を狙うような節税を、この要件で封じています。
「持ち家」の条件
「持ち家」の条件には、本人名義の家に加えて、3親等以内の親族と、特別な関係の法人が所有する家というものが追加されました。
こちらも、家なき子特例の適用を受けるために、自身と関係の近い親族や自分の会社に家を譲渡するという節税方法を防ぐためです。
適用のハードルは上がったか
家なき子特例適用の要件は追加されましたが、本来想定されている用途で利用したい人にとっては、ハードルが上がったとは言えません。
あくまでも、想定外の利用方法をする人を除くため、法律の抜け穴をふさぐ形での改正です。
家なき子特例で相続税対策をするには
家なき子特例は、条件に合致していれば利用することで大きな節税になります。
実子が全員持ち家を持っているなど、条件に合う相続人がいない場合には、「孫を養子にして自宅を遺贈する」という方法で利用するのが最もお得です。
相続税の軽減を受けられるほか、相続を一代飛ばすことができるので子→孫の相続税も節約することが可能です。
さらに、法定相続人が1人増えるので基礎控除や生命保険の非課税枠という面でもお得になります。
まとめ
親と同居していない子でも、家なき子特例の適用を受ければ相続税の節約が可能です。
そのほかにも、対策次第で相続税を減らす方法は様々なものがあります。
相続税対策には、自由度が高く、柔軟な対応ができる家族信託もおすすめです。