コラム

「受贈者」と「受遺者」の違いは?財産をもらったら行うべきことを解説

受贈者とは、財産の贈与契約によって無償で財産をもらう人のことです。
受贈者になると、もらった財産の価額に合わせて贈与税の納税が必要になります。

ただし、非課税になる金額や要件もあるため、贈与税で損をしないために制度をよく知っておきましょう。
また、今回は受贈者と混同されやすい受遺者との違いや、言葉の定義についても解説します。

受贈者とは

受贈者とは、財産の贈与を受けた人のことです。
まずは、受贈者という言葉の意味・定義や、混同されることもある「受遺者」との違いについて解説していきます。

受贈者の意味

「受贈者(じゅぞうしゃ)」は、贈与を受ける人のことです。
逆に財産をあげる人のことは「贈与者(ぞうよしゃ)」といいます。

贈与契約とは、名称通り財産を誰かに与えるという契約ですが、そこには3つの条件があります。
それは、「無償」「片務」「諾成」です。

まず、贈与契約に該当するためには、代金などを払わず「無償」で財産をあげる・もらう必要があります。
次に、「片務」とは「片方のみが義務を負う」という意味で、贈与契約ではあげる側にあげる義務がありますが、もらう側には何も義務がありません。
最後に「諾成」は、申込みと承諾の意思表示だけで成立するという意味です。贈与契約は、必ずしも契約書の作成などをしなくても行うことができます。

この条件を満たした「贈与契約」で財産をもらう人が、受贈者に該当します。

受遺者との違い

受贈者と字面や意味合いが似ていて混同されやすいのが、「受遺者」という言葉です。
しかし、受贈者と受遺者には、財産をあげる人が、財産の引渡し時点で生きているか亡くなっているかという違いがあります。

形式

まず、受遺者とは、遺言によって財産を遺贈される人のことです。
遺贈とは、正式な遺言書の中で「この人に財産を譲る」と書いて財産を与えることです。
遺言がなくても相続人になる法定相続人は、受遺者にはなりません。
法定相続人ではないものの、被相続人から財産を受け継ぐ人が、受遺者になります。

遺贈と贈与では、形式に様々な違いがあります。
まず、贈与契約は契約ですので贈与者と受贈者の合意に基づいていますが、遺贈は契約ではありませんので遺贈者の一方的な意思だけで可能です。
受遺者には、受け取る自由も受け取らない自由もあるので、遺贈を放棄することができます。なお、特定遺贈の放棄はいつでもすることができますが、包括遺贈の放棄は、自己のために包括遺贈のあった事実を知った日から3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。

また、贈与の場合はすでにあげてしまった財産については撤回して返してもらうことはできませんが、遺贈の場合、生前に遺言を書き換えればいつでも撤回できます。
最後に、贈与契約は口約束や意思表示だけで成立し、書類は必須ではありませんが、遺贈が成立するには正式な遺言書が必要です。

税金・登記手続き

贈与と遺贈では、税金や登記手続きにも違いがあります。
贈与された財産にかかるのは贈与税、遺贈された財産にかかるのは相続税です。
ただし、贈与の中でも死因贈与の場合は、被相続人が亡くなったことによって効力が発生するため、相続税の課税対象となります。

不動産を贈与または遺贈された場合の所有権移転登記についても、やり方に違いがあります。
贈与の場合、贈与者と受贈者の双方が協力して登記手続きを行います。
ただし、死因贈与では贈与者がすでに亡くなっているため、贈与者の地位を相続した相続人全員と受贈者の協力が必要となります。

一方、遺贈の場合、遺言執行者が指定されている場合は遺言執行者と受遺者が協力して手続きを行います。
遺言執行者が指定されていない場合には相続人全員の協力が必要となります。
ちなみに、相続開始後であれば家庭裁判所へ遺言執行者選任の申立てを行うことも可能です。

年齢

贈与と遺贈では、贈与者・受贈者・遺贈者の年齢制限にも違いがあります。
贈与は「契約」のため、贈与者や受贈者が未成年だと単独で行うことはできません。
ただし、親権者が代理人になれば、年齢を問わず贈与・受贈できます。

一方、遺贈者は15歳以上である必要があります。
これは、遺言の作成ができるのが15歳以上と民法で定められているためです。
ちなみに受遺者は、一方的に財産を受け取るだけなので、年齢制限はありません。

受贈者が外国にいる場合

贈与税は、日本国内で贈与・受贈された財産にのみかかる税金です。
そのため、受贈者が外国にいる場合には少し考え方が難しくなります。

まず、贈与者が日本に居住していたり、10年以内に日本に住所を持っていた場合、受贈者の住所や国籍を問わず贈与税の課税対象です。
一方、受贈者も住所が日本にあって一時的に海外に滞在している場合や、10年以内に日本に住所を持っていた場合には、贈与者の住所や国籍を問わず贈与税の課税対象となります。

日本の贈与税の対象とならないのは、贈与者・受贈者ともに、現在と過去10年以内に日本に住所を持ったことがない場合です。
ただしその場合も、居住している外国で、贈与税に相当する税金の課税対象になることはありえます。

受贈者が行うべきこと

それでは、財産の贈与を受けた場合に、受贈者が行うべきことを解説していきます。

贈与税の申告が必要なケース

贈与税の申告が必要なのは、贈与税の基礎控除である年間110万円以上の財産を贈与された場合です。
住宅取得資金贈与の特例や、教育資金の一括贈与の特例を受けて非課税になる場合も、110万円を超える場合には特例を適用する旨の申告が必要になります。

贈与税の計算方法

贈与税は、「特例贈与」「一般贈与」で税率が異なります。
特例贈与とは、直系尊属(祖父母や父母など)から、その年の1月1日において20歳以上の者(子・孫など)への贈与を指します。
それ以外の、兄弟姉妹間・配偶者間・親から未成年の子への贈与などは、一般贈与です。
特例贈与は、一般贈与よりも税率が低く、税額控除も多めになっています。

贈与税の特例税率・一般税率は、それぞれ以下の通りです。
(カッコ内は控除額)

特例税率
200万円以下:10%
400万円以下:15%(10万円)
600万円以下:20%(30万円)
1,000万円以下:30%(90万円)
1,500万円以下:40%(190万円)
3,000万円以下:45%(265万円)
4,500万円以下:50%(415万円)
4,500万円超:55%(640万円)

一般税率
200万円以下:10%
300万円以下:15%(10万円)
400万円以下:20%(25万円)
600万円以下:30%(65万円)
1,000万円以下:40%(125万円)
1,500万円以下:45%(175万円)
3,000万円以下:50%(250万円)
3,000万円超:55%(400万円)

贈与税は、贈与を受けた金額から基礎控除の110万円を差し引き、上記のうち該当する区分の税率と控除額を用いて計算します。

例えば、20歳以上の人が親から500万円の贈与(特例贈与)を受けた場合、贈与税の計算は以下のようになります。

500万円−110万円=390万円
390万円×15%−10万円=48万5,000円(贈与税の納税額)

贈与税申告の手続きと流れ

贈与税の申告先は、受贈者の住所地を所轄する税務署です。
贈与税の申告手続きの流れは、以下のように行います。

1.贈与税額を算出する
2.「贈与税の申告書」に納税額と必要事項(住所・氏名・個人番号等)を記入
3.所轄税務署へ、窓口・郵送・e-Taxいずれかの方法で提出

なお、特例贈与で410万円以上の贈与を受けた場合は「受贈者の戸籍の全部事項証明書または一部事項証明書」が必要です。
その他、住宅購入や教育資金などの特例の適用を受ける場合や相続時精算課税制度を利用する場合には、それを証明する資料の添付が必要になります。

複数の人から財産をもらったら

複数の人から財産をもらった場合、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けたものであれば一括で申告できます。
その際、贈与者との続柄などによって税率が異なるため、税額の計算には注意が必要です。

ちなみに、贈与税の基礎控除は受贈者1人につき年間110万円なので、何人から贈与を受けても控除できる上限は110万円となります。

受贈者が知っておきたい控除と非課税

最後に、受贈者が知っておくと得する、控除と非課税に関する制度についてお伝えします。

贈与税の特別控除の概要

贈与税の基礎控除は110万円ですが、贈与の目的によっては例外的に控除の枠が広がる場合があります。
それは、以下のような場合です。

・住宅を購入・リフォームするとき、親や祖父母から資金援助を受けた(最大3,000万円非課税)
・教育資金として親や祖父母から援助を受けた(最大1,500万円非課税)
・結婚・子育て資金として親や祖父母から援助を受けた(最大1,000万円非課税)
・贈与を相続の前渡しとして受け取る(最大2,500万円非課税)

もちろん、それぞれ細かな条件があり、適用されるためには手続きも必要ですが、贈与税で損をしないために知っておきたい制度です。

非課税項目とは

基本的に、財産をもらった場合には贈与税がかかりますが、一部非課税項目といって課税されないものもあります。
非課税項目に該当する財産を受け取った場合は贈与税の申告は必要なく、別件で贈与税の申告をする時にも計算に入れる必要はありません。
多くの人に関係があるのは、以下のようなものです。

・扶養義務者(夫婦・親子・兄弟姉妹など)から生活費や教育費に充てるために受け取った財産で、通常必要と認められるもの
・ご祝儀・香典・花輪代・年末年始の贈答・祝物・見舞いなどでもらった金品
・相続や遺贈により財産を取得した人が、相続があった年に被相続人から贈与により取得した財産

まとめ

受贈者とは、財産を無償でもらった人のことです。
受贈者になると贈与税の納付義務がありますが、非課税になる場合もあるため要件や制度をよく知っておきましょう。

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