家族信託とその他の制度との違い

商事信託と家族信託との違い

商事信託と家族信託との違い

「信託」には、大きく分けて商事信託と家族信託・民事信託があります。

商事信託とは?

「商事信託」とは信託報酬を目的として、信託銀行等が所有者(委託者)から財産を託され(受託者となり)、管理や承継を行う営利行為です。

家族信託とは?

「商事信託」に対して家族信託とは、財産の所有者が家族や親族など信頼できる人に財産を託し、託された方(受託者)が管理や承継を行っていきます。信託報酬を目的とした営利行為ではないため、信託業法の制限を受けずに信託行為が行うことが出来ます。
近年、財産継承を円滑に行うための手段として注目が高まっています。
なぜならば、信託した後は、たとえ認知症や障害等によって判断能力が低下した場合でも、大切な家族のために財産を有効に活用し守ることができるからです。

  商事信託 家族信託
受託者への報酬 有り(100万円以上) なし

遺言・遺言信託・遺言代用信託との違い

遺言書

遺言や遺言信託また遺言代用信託などよく似た言葉がたくさん有り、混乱される方がたくさんいらっしゃいます。
ここではその違いをご説明します。

遺言とは?

遺言は、本人が自分の死亡後に遺産を誰にどのように承継させるかの希望を、文書で作成する方法です。遺言には主として、自筆証書遺言、公正証書遺言というものがあります。

遺言信託とは?

遺言信託は、信託銀行等が持つ商品の一つのことを指します。
通常の遺言書の作成と、保管、執行を金融機関主導で進めるのが遺言信託です。
何か特別なことができるわけではありませんが、費用が比較的高額となる傾向にあります。 遺言代用信託とは大きく異なります。

遺言と遺言代用信託の違い

遺言と遺言代用信託の一番の違いは、確実性と柔軟性です。
遺言を作成しても、遺言内容に相続人全員が不満であれば遺言に書かれた内容を実行せずに撤回することができます。
一方、遺言代用信託は、確実に内容を実行することができます。
遺言の場合、二次相続以降の承継先をきめることができませんが、遺言代用信託の場合、二次相続以降の承継先も決めることができますので、子供がいない夫婦や、再婚して先妻との間に子がいるケースなど有効に活用できる場面がたくさんあります。
 また、遺言代用信託では、信託の開始を委託者の死後だけでなく、認知症になった場合とする契約を結んでおけば、本人が認知症になった時点で財産管理を受託者に移すという設計が可能です。

  遺言 遺言信託 遺言代用信託
(家族信託)
認知症発生後の財産管理 継続不可 原則継続不可 継続可能
二次相続以降の承継先の指定 不可 原則不可 可能

成年後見との違い

成年後見

成年後見も家族信託も、認知症に備えた財産管理の仕組みです。
成年後見は、家庭裁判所の監督のもと、後見人による財産管理が行われます。
一方、成年後見に比べて家族信託は、より柔軟で本人の長期にわたった意向を実現することができる制度といえます。
下記では、成年後見と家族信託を比較していきます。

成年後見

判断能力が低下し、財産管理や身上監護に不安のある方を法的に保護するための制度です。
「本人の保護」をするための制度であるため、裁判所の監督のもと、厳格に財産管理が実施されます。ゆえに認知症発生後は、生前贈与や不動産の売買、賃貸、補修、建て替え等ができなくなってしまうため、相続税対策が全く行えなくなります。
また、成年後見人の選任は家庭裁判所が行うため、財産がある方は家族などが選任されにくく第三者専門職(司法書士・弁護士等)が選任される可能性が高くなります。
専門職が後見人になると毎月の報酬が必要になり、その費用はご本人様が亡くなるまで続くため数百万円単位での出費となります。

家族信託

成年後見との大きな違いは、委託者が認知症発症後も信託の契約や効力が継続されることです。
元気なうちに信託契約を締結しておけば、もし委託者(本人)が認知症を発症しても、信託の契約内容にしたがって、受託者(家族)による積極的な財産の運用処分、管理、などを実施していくことが可能です。
家族信託が認知症対策として有効であるのはこのためです。
家族信託は、成年後見のように本人の保護のみにしばられることなく、「(受益者に財産を引き継がせる)本人の目的達成の保護」が最優先されます。また、裁判所への届け出の手間や不自由さがないことが特徴です。

  成年後見 家族信託
認知症発生後の財産管理 継続不可 継続可能
財産管理者 裁判所が決定※財産額が多い場合は、第三者(司法書士、弁護士など)が選ばれる場合が多い 家族(本人が選出)
財産管理内容の裁判所への届出 必要 不要

財産管理契約と家族信託との違い

財産管理契約

財産管理における委任とは、所有者である本人に判断能力がある場合に、第三者や家族に財産管理を委任する契約のことです。財産管理の所有者を「委任者」、管理を任される方を「受任者」として、財産管理委任契約が締結されます。
例えば、お父さんの代わりに不動産の売却手続きをしたり預貯金の解約手続きを委任するケースがあります。このような財産管理委任契約を締結する場合は、父親が「委託者」となり、息子が「受託者」となり財産を管理する家族信託契約を締結する場合と同じように見えます。
両者の違いは、
財産管理委任契約が「本人の判断能力があることを前提」としているのに対し、家族信託は「本人の判断能力が低下しても継続することを前提」としている点です。
財産管理委任契約は、「本人の判断能力が低下した後は実質使えない」契約であるのに対し、家族信託(民事信託)契約は「本人の判断能力が低下しても継続して使える」契約です。

父親と息子の間で、預貯金の名義変更を行う委任契約、もしくは不動産を売却する委任契約を結んだとしましょう。
このとき、父親と息子間では委任契約は行われていますが、銀行口座・不動産の名義は以前父親のままです。そのため、どちらの場合も本人確認を求められます。
父親が元気なうちは、本人確認が可能ですが、認知症になってしまうと本人確認をとることが不可能となります。

そのため、本人確認ができない以上、委任契約があったとしても息子は名義変更を行うことも不動産を処分することもできません。 一方、家族信託の場合、信託を開始した時点で信託財産は、父親(委託者)の名義から息子(受託者)の名義に変更されます。(利益は、父親(受益者)に帰属)
そのため、認知症に備えた長期的な財産管理を希望する場合には、家族信託が有効であると言えます。

  財産管理契約 家族信託
契約締結後の判断能力 必要 不要
認知症発症後の財産処分 不可 可能

家族信託は認知症対策など
様々な場面において非常に有効です!!

認知症になってしまうと、名義者以外は銀行口座を解約したり、預金を下ろしたりすることはできません。
また、不動産を持っている場合、売却はもちろんの事、入居希望者と賃貸借契約が結べなかったり、修繕の契約ができなかったりと実質上預金や不動産は塩漬けになってしまいます。
認知症になった後に法定成年後見を申し立てることも考えられますが、家庭裁判所の監督下におかれますので、アパートの大規模修繕、建て替え、売却などについては、本人(成年被後見人)のために本当に必要な行為であるかどうか家庭裁判所の判断も入ってきますので認められない事も多く見受けられます。
相続税対策や不動産運用を積極的に継続させるために、本人が元気なうちに家族信託・民事信託を組んでおくことによって、万が一認知症になった場合も安心して相続対策を継続していくことができます。