コラム

【成年後見と家族信託の違い】併用した方がいいって聞いたけど本当なの?

「家族信託という制度があるのはわかったけれど、成年後見制度との違いがいまいちわからない。併用できると聞いたこともあるけれど、そもそも併用した方がいいの?認知症発症後の場合も併用できるの?」

今回は、成年後見と家族信託を比較し、併用すべきかどうか、認知症発症後は併用できるのかについてお伝えしたいと思います。

成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害など精神上の障害によって、物事を判断する能力が十分ではない方(本人)について、本人の財産や権利を保護する事を目的として、家庭裁判所の監督のもと、厳格に財産管理が実施される制度のことです。
成年後見制度は「本人の保護」「その方の財産を守ること」を目的としているため、そのご家族が財産を運用したり、有効活用することができなくなってしまいます。
ですので、ご家族や相続人にメリットがある相続対策が全く行えなくなります。
例えばお持ちの不動産を大規模修繕をしたり、不動産を売却することに合理的な理由が認められない限り家庭裁判所から許可がおりません。

また、成年後見人の選任は家庭裁判所が行うため、ある程度の財産がある方のご家族は成年後見人に選任されにくく第三者専門職(司法書士・弁護士等)が選任される可能性が非常に高くなります。
第三者専門職が後見人になると毎月の報酬が必要になり、その費用はご本人様が亡くなるまで続くため数百万円単位での出費となります。

家族信託と成年後見の違い

家族信託成年後見制度の大きな違いとしては、認知症を発症した後に、相続税対策や資産の有効活用や処分行為ができるかどうかという事が挙げられます。
例えば、成年後見制度を採用した場合、ご本人の居住用の不動産を売る場合、家庭裁判所の許可が必要になります。
しかも、この家庭裁判所の許可は、不動産を売るのに合理的な理由がないと認められません。(例 不動産を売らないと生活費や施設費がまかなえないなど)
預貯金が十分にあるのに不動産を売りたいと言っても、家庭裁判所の許可はおりない可能性が高いです。
他方、家族信託では居住用不動産の売却であっても、家庭裁判所の許可は必要ありません。信託契約書において資産の有効活用や円滑な資産承継を書いてあれば、財産を託された受託者は柔軟な資産活用や相続税対策・処分行為が可能となります。
他にも家族信託成年後見の違いは、家族信託の場合、財産の管理者を自由に決めることが出来ますが、後見制度の場合、財産額によって、専門家(司法書士、弁護士など)が選ばれる場合が多いので、自由に財産を任せる人を決める事が出来ない可能性が高い事や、裁判所に財産管理の内容を毎年届ける義務があるなどの違いがあります。

家族信託と成年後見は併用した方がいいの?

万能のように思われる家族信託ですが、決して万能という訳ではありません。

●家族信託には以下のような足りない点があります。

  • ・家族信託は信託財産以外に関しては関与できない
  • ・家族信託は財産管理のみで身上看護はない

家族信託は委託者が信託する財産を選んでその財産を受託者に信託財産を任せる制度です。
その為、信託財産は信託契約に沿った管理運用が出来るのですが、それ以外の財産については委託者固有の財産のままです。
家族信託で判断能力がなくなった場合、信託財産については、受託者が柔軟に管理運用処分行為ができますが、それ以外の財産については、信託財産ではないので、管理運用等はできないので、成年後見制度を利用する必要が出てくるのです。
なお全ての財産を信託財産にすると、委託者固有の財産はなくなってしまいますので、そのような信託契約をするべきではありませんしする事はできません。
このように全財産を特定の人に渡したい場合は遺言書を併用して誰誰に全財産を相続させるとすべきです。
また、家族信託の受託者は財産管理権はありますが、身上監護権はないので、病院や保険に関する手続きや、施設の入所・転出などの手続きは、厳密にいえばできないので、成年後見人の職務になります。
但し、実際は上記のような行為をするのに後見人を選任しなければならないという事は、ほとんどありえないように思われます。