コラム

家族信託契約と銀行の「家族信託」の違いとは

家族信託を考え始めたけれど、誰に相談して良いかわからないという方は多いです。
「お金のことだから、まずは銀行に」と考えてしまいがちですが、銀行だけでは家族信託を組む手続きはできません。

しかし、銀行等も「家族信託」と名前のついた商品を扱っていて、限られた内容であれば銀行等の家族信託系商品で対応できることもあります。
今回は、家族信託に関して銀行等の金融機関でできることと、できないことをお伝えいたします。

そもそも家族信託とは

家族信託とは、自分の財産を管理・処分できる権利を家族の誰かに託すことです。

高齢になると、認知症を発症したり、体が弱って手続きに行けなくなったりして、自分の財産を自分で管理できなくなることがあります。
基本的に、銀行で多額のお金を下ろす、不動産や株式を売買するなどは本人しかできないので、持ち主が高齢になることでスムーズな手続きが難しくなるのです。

そんなときのために、家族信託を組んでおくことで、適切なタイミングで財産を運用でき、有効活用することができるのです。

家族信託についてもっと詳しく知りたい方は、「家族信託とは?7つのメリットを解説」をぜひご覧ください。

銀行等による「家族信託」とは

銀行等が「家族信託」や、それに近い名称の商品を扱っていることがあります。
しかし、これは先にお伝えした家族信託契約とは性質が異なるものです。
銀行等が扱っている「家族信託」とは、お金を銀行等が預かり、一定の条件で家族に支給するという預金に近いサービスです。

例えば、銀行等の家族信託では以下のようなことができます。

・銀行にお金を預け、預けた人が亡くなったら、指定した人にそのお金を支給する
・銀行にお金を預け、指定した人に毎月決まった額ずつ支給する


これは、家族信託という名前がついていても「商事信託」の一種です。

メリット

銀行等の家族信託系商品を利用するメリットには、以下のものがあります。

・母体が銀行であるため、元本が保証される
・相続発生後、すぐに財産が引き出せる
・毎月決まった金額を渡せるので、一括の贈与や相続に比べて浪費を防げる


銀行等の家族信託系商品は、主に葬儀費用の準備や、遺族の生活保障などに役立ちます。
手数料は無料に近いものもあり、専門家に通常の家族信託の相談をするより費用も安いです。

デメリット

銀行等の家族信託系商品には、以下のようなデメリットがあります。

・預け入れる最低額が定められていることが多く、少額の利用はできない
・金銭のみが対象なので、不動産等は信託できない
・商品内容以外の自由な設計ができない


銀行等の家族信託系商品は、通常の家族信託よりできることが少ないです。
例えば、以下のような場合には銀行等の家族信託系商品は向いていません。

・不動産も信託財産に含めたい
・相続税対策として家族信託を利用したい
・事業継承対策として家族信託を利用したい
・家族信託を遺言の代用にしたい
・二次相続対策など、複雑な内容を設計したい

家族信託契約には専用銀行口座が必要?

家族信託契約をする際には、銀行や信用金庫等が信託口座であるとして家族信託専用の口座(以下「信託口口座」といいます。)を作成してくれれば非常に便利です。
ただし、いま現在日本で家族信託用の「信託口口座」が作れる銀行は限られています。

家族信託は比較的新しい制度なので、銀行側がしっかり理解できていない、「信託口口座」を開設してもあまり銀行にメリットがない、などがその理由です。
いきなり自分で「信託口口座」を作りに行くより、まずは専門家に相談して、地域で「信託口口座」を作れる銀行を教えてもらうのがおすすめです。

「信託口口座」を作るメリット

「信託口口座」を作るメリットは、委託者・受託者が死亡・破産したときにも財産が守られることです。

「信託口口座」を作ると、そこに預け入れた信託財産は、委託者・受託者両方の財産から切り離して考えられます。
もし委託者・受託者が破産したとしても、信託財産が差し押さえられることはないのです。

仮に、「信託口口座」を用意せずに受託者個人の口座(以下「信託専用口座」といいます。)で財産を管理している場合、受託者が死亡したときには法定相続人、受託者が破産した場合は債権者に、受託者個人の財産の権利を主張される可能性があります。
そのようなリスクを避けるために、銀行等が「信託口口座」を作成してくれれば便利なのです。
しかし、残念ながらほとんどの銀行や信用金庫が「信託口口座」を作ってくれないのが現状です。

口座開設ができる銀行

先にもお伝えしましたが、現状日本で「信託口口座」を開設できる銀行はまだ多くありません。

一般的に「メガバンク」と呼ばれる大手銀行では、信託口口座が作れないことが多いので注意しましょう。

「信託口口座」作成の流れ

「信託口口座」は、以下のような流れで作成します。

1.家族信託の契約内容を銀行などの金融機関と打ち合わせる
2.家族信託契約の公正証書を作成する
3.作成した公正証書と各種書類を銀行などの金融機関に提出し、口座を開設する


「信託口口座」を作るためには、事前の打ち合わせと、家族信託の内容を証明する公正証書が必要です。
普通の口座を開設するように、即日手続きができるわけではないので注意してください。

開設することができない場合は?

信託口口座を作ることができる銀行等が近くにない、何らかの理由で利用したくないなどの場合は、新しく受託者名義の個人口座である「信託専用口座」を作って家族信託専用にするのがおすすめです。

ちなみに、「信託専用口座」を新しく作らず、受託者がすでに持っている口座を使うことも不可能ではありません。
しかし、それだと信託財産と受託者の財産の区別がつきにくく、トラブルに発展するリスクが大きいため避けた方が良いでしょう。

銀行ローンのある不動産も家族信託は可能?

家族信託に含めたい不動産に、銀行ローンが残っているということがあります。
その場合でも、家族信託の対象とすることは可能です。


しかし、銀行ローンが残っている不動産を家族信託するには、貸し手である銀行の同意が必要です。
同意が得られなければ、契約違反で一括返済することを求められる可能性もあります。

銀行の同意を得て、ローンの残っている不動産を家族信託した場合、ローンの支払いに関しては以下の2パターンがあります。

・委託者(ローン契約者)がそのまま返済を継続する
・受託者が債務引受をし、以降は受託者がローンを返済する


また、銀行の同意を得られない場合、家族信託を承諾する他の銀行に借り換えるという選択肢もあります。

家族信託の相談は司法書士がおすすめ

家族信託の相談先として銀行等の金融機関を選ぶのは、あまりおすすめできません。
先にお伝えしたように、銀行等で扱っている商品は「家族信託」という名前がついていても通常の家族信託とは別物であるためです。
場合によっては、銀行等の家族信託系商品で十分対応できることもありますが、通常の家族信託には銀行では対応しきれません。

もし、銀行等を窓口にして家族信託を組む場合、結局銀行が司法書士などの専門家に依頼するため、余分な手数料がかかってしまいます。
家族信託を組みたいと思ったら、まずは不動産登記や相続の専門家である司法書士に相談しましょう。

まとめ

銀行等の金融機関が「家族信託」と名前がついた商品を扱っていることもありますが、これは通常の家族信託とは異なります。
銀行等の家族信託系商品ではできることが限られているため、相談に行く前に内容を確かめるようにしましょう。
家族信託の相談は、不動産登記や相続の専門家である司法書士がおすすめです。